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中東紛争が浮き彫りにする日本のエネルギー脆弱性と、クリーンエネルギー転換を加速させる必要性
Published: 09 Mar 2026
中東で急速に激化する紛争は、世界のエネルギー市場に再び不安定さをもたらし、石油・ガスの輸入国が抱える構造的な脆弱性を改めて浮き彫りにしている。2月28日の米国によるイラン攻撃と、世界有数の海上エネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡の一時的封鎖を受け、ペルシャ湾からの石油・ガス供給は停止し、世界のエネルギー価格は急騰した。
フィナンシャル・タイムズによれば、イランによるエネルギーインフラへの攻撃は、2022年のロシアによるウクライナ全面侵攻以来、最大規模の世界天然ガス価格の上昇を引き起こした。同紙はさらに、今後の価格への影響の大きさは紛争の長期化の度合いに左右されると指摘している。しかしこの出来事はすでに、より根本的な構造的リスクを浮き彫りにしている。すなわち、化石燃料のサプライチェーンは地政学的不安定性に対して著しく脆弱であるという点である。
欧州の天然ガス価格の急騰は、たとえ物理的な供給が直接制約されていない場合でも、化石燃料への依存が世界的な価格ショックに対する過大なリスクをもたらすことを示した。ホルムズ海峡を経由したカタール産LNGの輸入が全体の10%に過ぎないにもかかわらず、価格は39%も上昇した。
日本にとって、この影響は差し迫ったものだ。日本は依然として世界有数のエネルギー輸入依存国であり、2024年には必要エネルギーの約87%を輸入に依存している。原油の約90%、液化天然ガス(LNG)の約11%は中東からの輸入であり、その多くがホルムズ海峡を経由して輸送されている。
こうした依存構造は、世界的な価格変動やサプライチェーンの混乱、地政学的リスクへの脆弱性を高め、エネルギー政策を単なる経済的課題から国家安全保障上の戦略的課題へと押し上げている。今回の価格および供給ショックはその現実を明確に示している。高市首相もまた、エネルギー安全保障の重要性について国民への説明を余儀なくされている。
電力供給こそ、日本が直面する最大の脆弱性
日本は相当量の原油備蓄を維持しており、当面の燃料不足に対する一定の緩衝機能を持っている。高市首相は3月2日、現在の石油備蓄量が約254日分に相当することを確認した。しかし、電力供給はこれとは異なり、より大きなリスクにさらされている。
日本の発電量の30〜40%はLNGに依存しており、発電用LNGの燃料備蓄はわずか2〜3週間分にとどまっている。輸送用燃料として備蓄可能な石油と異なり、LNGは電力供給を維持するために継続的に輸入し続ける必要がある。
ガスの輸入が長期間にわたり途絶した場合、数週間以内に電力不足が生じ、工業生産や病院・スーパー・物流網といった社会インフラに深刻な影響を及ぼす可能性がある。仮に物理的な供給不足が生じなくとも、世界のLNG市場の価格変動により、企業や家庭の電力コストが大幅に上昇する可能性がある。
エネルギー安全保障は、経済的な強靭性と戦略的自律性の根幹をなすものである。国内のクリーンエネルギー発電を拡大すれば、外部依存を減らし、長期的な経済の安定と国家安全保障を高めることができる。日本にとって、これはもはや気候変動対策や経済政策にとどまる課題ではない。地政学的な不確実性が高まる中で、国家安全保障の中核的な柱となっている。
日本のエネルギー安全保障の実現に向けて
今回の危機の引き金は地政学的なものであるが、その根底にある脆弱性は構造的なものである。日本のエネルギーシステムは、依然として輸入化石燃料への依存度が高い。
国内再生可能エネルギーを拡大することは、こうしたリスクを軽減しながら、長期的な経済的強靭性を高める有効な道筋となる。日本は豊富な再生可能エネルギー資源、とりわけ太陽光発電と浮体式洋上風力において大きな潜在力を有している。環境省の研究によれば、国内の風力および太陽光資源だけで、理論上は日本の電力需要の2倍を賄えるとされている。
課題は資源の有無ではなく、導入スピード、系統の増強、そして規制の整合性にある。適切な政策的枠組みと投資環境が整えば、日本は2040年までに80%以上のクリーン電力を実現でき、現行の政策目標を上回ることも可能である。
一方、電力需要はAIデータセンター、半導体製造、デジタルインフラの拡大を背景に、2034年までに約5.8%増加すると見込まれている。
この需要増加は戦略的な投資機会でもある。制度・市場・規制改革と連動した長期電力売買契約を活用することで、日本の電力セクター全体の構造転換を加速させることができる。
この移行を実現するには、2035年までに必要な投資額は約38兆円と推計されており、これは日本が計画する150兆円のGX(グリーン・トランスフォーメーション)投資の約25%に相当している。こうしたコストの多くは、化石燃料輸入の削減によって相殺されると見込まれる。
現在の安全保障・経済上の喫緊の課題に見合う規模で日本のクリーン電力の潜在力を引き出すため、クライメート・ボンド・イニシアチブは、クリーン電力への大規模投資と導入に向けて以下の4つを提案します:クライメート・ボンド・イニシアチブは、クリーン電力への大規模投資と導入に向けて以下の4つを提案します:
- 経済産業省の計画に基づき、送電網の容量を拡大する
- 再生可能エネルギー導入に向けた計画策定および許認可手続きの迅速化
- 分散型エネルギーシステムの拡大を推進する
- 低コスト資金を動員するための長期電力購入契約の活用
詳細は以下のレポートをご覧ください: https://www.climatebonds.net/data-insights/publications/renewable-power-key-japans-energy-security
国内のクリーン電力を拡大することは、日本がエネルギーの脆弱性を克服しつつ、国家安全保障とグローバルなサステナブル債券市場の成長を同時に支える最も有効な手段のひとつである。技術はすでに存在し、資本も整っており、日本の工学力と金融力は世界トップクラスにある。今求められているのは、クリーン電力インフラを戦略的な国家資産として位置づけための、明確で一環した政策の方向性である。
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